人生には、一度知れば元の世界に戻れなくなるような、いくつかの愉しみがあります。そのひとつが「オーダーメイド・スーツ」の世界です。この極上のフォーマルを愛する人だけに許された悦楽の世界には、オンリーワンであり、「一生もの」を所有する喜び、無情の着心地、寄せられる賛美と羨望の眼差しがあります。

クラシカル＆ラグジュアリー

「スーツにはそれを着ることで、相手に自分を視覚的にどのように伝えるかというツールの役割があります」と話すのは、福岡市百道浜にある完全予約制のオーダースーツ専門店「テーラーカミ」の荒川啓太社長です。

 

オーダースーツの魅力は、自分の体型や感性に合った自分だけの特別なスーツをつくることができることですが、そのうえで重要視すべきは、そのスーツを着ることで自分がどう見られたいかであり、自分のスタイルを見つけることです。そして、その手助けをしてくれるのがテーラーの存在です。

 

「クラシカル ＆ ラグジュアリー」をコンセプトに、イギリスの伝統的で紳士的なスタイルを重視しながら、イタリア風の遊び心を加えたスタイルを提案する同店のオーダースーツを愛用される方は、ビジネスマンはもちろんですが、８割が経営者で、その他、医師や弁護士、野球選手といった身だしなみや外見への意識の高い40代の方が多いそうです。それは自分が着たいものを着るのではなく、相手にどういった印象を持ってもらいたいかを考え、さらに見る人が見れば分かる遊び心が加えられたスタイルを求めているからに他なりません。

 

こだわり

 

同店のこだわりのひとつが生地の品揃えです。イギリスもの７割、イタリアもの３割で、これは「クラシカル＆ラグジュアリー」の組み合わせの割合と同じだそうで、裏地に関しては九州で一番の品揃えを誇っています。

 

「イギリスの紳士などは、スーツの外見はクラシカルでありながら裏地で遊び、ふとした瞬間にチラリと見えた裏地によって、その人が何かを秘めているのではないかという雰囲気を醸し出すそうです。裏地には、そういった役割もあり、それが色気にもつながりますので、豊富な品揃えから、その人の感性に合ったものを選んでいただければと思います」（荒川）

 

そして、一番のこだわりが縫製です。サイズが合っているのはもちろんのこと、お客様の体型を生かしたメリハリを利かせた流行に左右されない「サイズ感」を心がけています。また、裏地、芯地、ボタン、ファスナーといった「副資材」の素材の良さや、見えない場所の縫製のクオリティにも徹底的にこだわっています。

 

オーダーの種類

オーダーには、「パーソナル・テーラリング」と「ビスポーク」の２種類があります。パーソナル・テーラリングとは、いわゆるパターンオーダーで、予め用意されたパターンを元に、サイズ調整し、生地を選び、ディテールを決めたら、国内工場で縫製されます。オーダースーツを手軽に体感できるのが魅力で、テーラーカミでは、通常のパターンオーダーよりもサイズ調整の幅を持たせ、フルオーダーに近いものとなっています。

 

ビスポークとは、型紙をテーラーが一からつくり、すべてが手縫い。仮縫いや着合せの工程もあるフルオーダーのことで、そのフィット感は、まさに「自分だけのスーツ」と感じられるものです。また、手縫いであることで、特に肩周りのシルエット美しさに違いが出るそうです。

 

「フルオーダーをなさる方は、『本当に自分に合ったものをつくりたい』という方です。パターンオーダーでもサイズや感性に合ったものは十分につくることができますが、それでも満足できない方や『もっといいものをつくりたい』といった方がフルオーダーをなさいます。そして、一度その世界を知ると、もう戻れません」（荒川）

 

感性を引き出す

「お客様の感性をどれだけ引き出せるかが鍵」と荒川社長。「ビスポーク」とは「be spoke」であり、「会話を大切にしながら、お客様の望む最高のものをつくりあげる」という英国のテーラーメイド紳士服を語源とします。同店が完全予約制なのもお客様との会話を大切にし、感性を引き出すためで、約２時間の間に、じっくりと採寸や生地選びをしていただきながら、お客様の個性やキャラクター、動きの癖などを見極めるといいます。

 

「少し敷居が高いように感じられる方もいらっしゃるかもしれませんが、スーツに関する予備知識や自分のスタイルが明確でなくても、お客様に見合ったものをご提案させていただきますので、お気軽にお越しください」（荒川）

 

また、テーラーカミでは、2015年6月に九州初のテーラーアカデミーを開講予定です。半年間（月3回、全18回）でパターンオーダーを軸にしたプロフェッショナルな技術が習得可能で、アカデミー卒業後には直にビジネスを始められる実践的な講座となっています。